学校のパンフレットやサイトを開くと、たいてい目立つ場所に大学合格実績が並んでいます。「早慶上理◯◯名」「国公立◯◯名」。数字が大きいほど良い学校に見える、というのは自然な感覚です。
ただ、この数字は思っているほど素直ではありません。同じ「実績」という言葉で表されていても、中身がまるで違うことがあるからです。今日はその「読み方」の話をします。学校を批判したいわけではなく、数字の性質を知っておくと、実績との付き合い方が少し楽になる、という話です。
まず知っておきたいのは、進学実績には大きく二つの数え方がある、ということです。
ひとつは延べ合格者数。これは「合格した数」を積み上げたものです。1人の生徒が早稲田・慶應・上智の3校に受かれば、その1人が「3」とカウントされます。私立大学は複数の学部・複数の日程を併願できるので、実際には同じ生徒が何度も数字に乗ります。
もうひとつは進学者実数。こちらは「実際にその大学へ進んだ人の数」です。1人は1人としてしか数えません。
この違いは、具体的な数字で見るとよくわかります。ガクリサ調べ(公開情報ベース・2026年7月時点)で、都立中高一貫校のいくつかを並べてみます。
小石川の「早慶上理287」は目を引く数字です。ただ、この学校の卒業生は1学年およそ150名。287という数を150名で割ると、1人あたり約2件の合格になります。つまり「287人が早慶上理に受かった」のではなく、「延べで287の合格が積み上がった」というのが正確な読み方です。難関私大をいくつも併願する生徒が多ければ、卒業生数を上回る早慶上理の合格数が出ることも珍しくありません。
これは小石川に限った話ではありません。上に並べた三鷹も桜修館も、公表は延べ合格です。数字の大きさだけを横に並べて「こっちの学校のほうが上」と言うと、実は「併願の多さ」を比べていた、ということが起こり得ます。
一方で、進学者の実数だけを公表している学校もあります。
東大附属の早慶上理は「9」。先ほどの小石川の「287」と並べると、桁が違って見えます。でも、これを「東大附属は実績が弱い」と読むのは完全な誤読です。東大附属は、実際に進学した人の数だけを載せているからです。延べ合格ではないので、そもそも数え方の土俵が違います。
同じ表に「早慶上理287」と「早慶上理9」が載っていたとして、この二つを引き算することには意味がありません。片方は併願を含む延べ、片方は1人1カウントの実数。ものさしそのものが別物です。
むしろ、進学者実数を公表するのは誠実な姿勢だと思います。延べ合格は数字が大きく見えて見栄えがしますが、実数は「うちの卒業生が実際にどこへ進んだか」をそのまま示すものです。数え方に良し悪しがあるわけではなく、学校ごとに公表の流儀が違う、というだけのこと。だからこそ、受け取る側が「これはどちらの数字か」を確かめる必要があります。
数字の前で立ち止まるための、簡単なチェックを4つ挙げておきます。
この4点を通すだけで、「大きい数字=良い学校」という単純な見え方から、少し距離を取れるはずです。
ここまで数え方の話をしてきましたが、もう一歩引いた話もさせてください。
仮に数え方を正しくそろえて比べられたとして、それでも「進学実績が良い学校」が「あなたに合う学校」とは限りません。
進学実績には、その学校に入ってくる生徒の入口の学力が、かなり大きく効いています。もともと高い学力の生徒が集まる学校は、卒業時の実績も高く出やすい。これは学校の面倒見の良し悪しとは、必ずしも一致しません。実績の数字は、教育の成果と入口の学力が混ざったものとして表れます。
そしてもっと大事なのは、6年なり3年なりを過ごす場所として、その校風が自分に合っているか、ということです。ガクリサが偏差値や実績より先に「校風」を置いているのは、ここに理由があります。同じ勉強に力の入った学校でも、自由でのびのびした空気の学校もあれば、手厚く管理して伴走する学校もある。どちらが良いかは人によって違います。合わない環境で数字だけ立派な3年間より、合う環境で自分のペースを見つけられる3年間のほうが、たぶん本人にとっては良い時間です。
進学実績は、学校選びの入口ではなく、いくつかある材料のひとつ。そう位置づけると、数字に振り回されずにすみます。
こうした事情があるので、ガクリサでは進学実績の載せ方に自分たちなりのルールを決めています。
数字の見栄えより、数字の意味がそろっていることを優先する。地味ですが、実績を扱ううえでいちばん大事なところだと考えています。
最後に。進学実績は、学校を上から順に並べる順位表ではありません。傾向をつかむための道具です。
「この学校からは国公立にも私大にも幅広く進んでいる」「理系に強そうだ」「現役で難関に届く生徒が一定数いる」——こういう傾向を読み取るには、実績はとても役に立ちます。数え方さえ意識すれば、その学校が卒業生をどんな進路へ送り出しているかの、おおよその輪郭が見えてきます。
けれど、延べ287と実数9を引き算して優劣を決めるような使い方をすると、数字はたちまち嘘をつきます。道具は使い方次第です。
大きい数字にちょっと立ち止まって、「これは延べかな、実数かな」と一度だけ問い直す。その一手間が、学校選びの解像度をずいぶん上げてくれるはずです。
本記事の数値はすべてガクリサ調べ(公開情報ベース・2026年7月時点)です。各校の合格実績は、それぞれの学校が公式に公表している合格者数・進路状況(小石川中等教育学校 令和8年度大学入試合格者数、三鷹中等教育学校 令和8年度卒業生進路状況一覧、桜修館中等教育学校 主な大学合格数推移、南多摩中等教育学校 11期生合格数実績、東京大学教育学部附属中等教育学校 大学別進学者数実績 ほか)を元にしています。多くの学校の公表は延べ合格者数(1人で複数の合格を含む)で、進学者実数とは異なります。数え方や集計基準は学校ごとに異なるため、絶対数の単純な比較には向きません。実績の性質を説明することが本記事の目的であり、各校の公表姿勢を評価・批判する意図はありません。数字は年度によって変動します。